引き続き寺田寅彦の随筆を読む。「竜舌蘭」という随筆もまた、心に深い余韻を残す逸品。


> 一日じめじめと、人の心を腐らせた霧雨もやんだようで、静かな宵闇(よいやみ)の重く湿った空に、どこかの汽笛が長い波線を引く。

という、重たい空気と、重たい気分とを絶妙に重ね合わせた描写から、少年時代が終わろうとしていた頃の思い出話へと話が進み、最後は「雷はやんだ。あすは天気らしい。」と、時制は今に戻る。

雷が過ぎ去り、少年時代は過ぎ去り、過ぎ去った少年時代を回想することで、抱えていたもやもやとした気分が去る。その一瞬の心の動き、ゆらめきを捉える鋭さがすごい。それを、竜舌蘭を使って一編の詩的な文章にしたてあげる才覚。

「どこかの汽笛が長い波線を引く。」だなんて、どうしてこんな文章が書けるのだろう。

竜舌蘭とはこんな花とのこと。